東京高等裁判所 昭和34年(う)446号 判決
被告人 鄭在淳
〔抄 録〕
事実誤認の論旨について。
原判決挙示の証拠によれば、被告人はパチンコ店を経営する今井商事株式会社に大量のたばこを販売しようとし、それに要するたばこを入手するため、日本専売公社の指定たばこ小売人である堀作次郎、同加藤つやの等にこれを依頼し、作次郎の家族である青山栄子(旧姓堀)又は加藤つやのの使用人佐々木武志が日本専売公社に製造たばこ買入に赴くのに同伴し、その都度所要のたばこの数を指定し、その代金を右青山又は佐々木に交付し、指定たばこ小売人である前記堀作次郎又は加藤つやのの名義によつて日本専売公社の製造たばこを買受け、これを前記今井商事株式会社に販売したものであり、今井商事株式会社との間にたばこ代金を即金で支払わなくともよく、若干の日時をおいて後払いを受けることにしていたが、その事について堀作次郎や加藤つやのは少しも関知するところがなく、本件製造たばこの買入より販売先の選択並びに決済条件に至るまですべて被告人が自己の計算においてしたものと認められ、被告人以外の者、すなわち、堀作次郎又は加藤つやのが今井商事株式会社に対するたばこの販売人になつていたとはいえない。当審証人佐々木武志、同青山栄子の供述は右認定を左右するものではない。被告人が堀に金五万円を貸与したことがあり、その返済の唯一の方法としてたばこを大量に購入する得意先を維持し、利益を挙げる必要があつたとしても、又被告人が加藤つやのの夫鄭東淳の経営する映画館の雑役に雇われていた事実があつたとしても、被告人が自己の資金により自己の計算において今井商事株式会社に対する本件たばこの販売をしたとの前記認定を覆すことはできない。果して然らばこれと同趣旨の原判決は正当で事実誤認はないから論旨は理由がない。
(兼平 足立 山岸)